PDRNとは何か — 成分の正体を知る
PDRN(Polydeoxyribonucleotide:ポリデオキシリボヌクレオチド)は、サケ(主にシロザケ Oncorhynchus keta)の精巣から抽出される高純度DNA断片です。分子量は50〜1,500kDaで、90%以上が精製DNAで構成されています。
「サーモン注射」という通称から魚そのものを注入するイメージを持つ方もいますが、実際にはDNAの構成要素であるヌクレオチド鎖を高度に精製したものです。イタリアでは1994年にAIFA(イタリア医薬品庁)が創傷治癒薬として承認しており、医療分野で30年以上の使用実績があります。
作用メカニズム — なぜ肌の再生が期待できるのか
PDRNの中心的な作用メカニズムは、アデノシンA2A受容体への結合です。PDRNが分解されて生じるヌクレオチドがこの受容体を活性化すると、細胞内でFAK(焦点接着キナーゼ)やMAPK(分裂促進因子活性化プロテインキナーゼ)のリン酸化が誘導されます。
これにより線維芽細胞やケラチノサイトの増殖が促進され、コラーゲン合成や皮膚バリア機能の強化につながると考えられています。また、PDRNはサルベージ経路を通じてDNA合成に必要なヌクレオチドを供給し、代謝が活発な組織の細胞再生をサポートするとされています。
“2025年の研究では、PDRNがSIRT1(長寿遺伝子)の発現を有意に上昇させ、UVBや酸化ストレスから細胞を保護する可能性が報告されている。
韓国発トレンド — Rejuranの登場と普及
PDRNを美容注射として広く普及させたのは、韓国のPharmaResearch社が開発した「Rejuran(リジュラン)」です。韓国MFDS(食品医薬品安全処)の承認を受けた唯一の直接皮膚注入型PN製品であり、スキンブースターとして皮膚科・美容クリニックで広く使用されています。
韓国では「サーモン注射」「赤ちゃん注射」といった通称で親しまれ、肌のハリ・弾力の改善、小じわの軽減、肌質改善を目的に多くの方が施術を受けています。2024年以降はK-Beautyブームとともに日本やアジア各国、欧米でも注目が急速に高まりました。
日本での位置づけと注意点
日本において、PDRN注射は2026年3月時点で厚生労働省の薬事承認を受けた製品はなく、美容クリニックでの使用は「未承認薬・医療機器」としての自由診療扱いとなります。これは効果がないという意味ではなく、日本国内での大規模な治験データがまだ蓄積されていない段階であることを意味します。
施術を検討する場合は、医師による十分な説明と同意(インフォームド・コンセント)を受けること、使用製剤の出所と品質を確認すること、そして副作用やリスクについて理解したうえで判断することが重要です。
臨床エビデンスの現状
PDRNに関する研究は増加傾向にあります。創傷治癒やコラーゲン合成の促進については複数のin vitro(試験管内)およびin vivo(動物実験)研究で有効性が示されています。ヒトを対象とした臨床試験では、肌の弾力性改善やしわの軽減に関する報告がいくつか存在します。
ただし、大規模なランダム化比較試験(RCT)はまだ限られており、長期的な安全性や最適な投与量・間隔についてはさらなる研究が必要です。ヒアルロン酸との複合製剤(HA-PDRN)がフィラーとして高い持続性を示すといった新しい知見も報告されていますが、エビデンスの蓄積はまだ途上です。
まとめ
PDRNはサケ由来のDNA断片を高純度に精製した成分であり、アデノシンA2A受容体を介した細胞再生促進というメカニズムが注目されています。韓国を中心に美容注射として広く普及し、日本でも関心が高まっています。
一方で、日本では未承認薬の扱いであり、臨床エビデンスは蓄積途上です。SNSなどの情報だけで判断せず、信頼できる医療機関で医師と相談のうえ、ご自身に合った選択をしてください。
References
- [1]Biomaterials Research — Versatile and Marvelous Potentials of PDRN for Tissue Engineering and Regeneration (2024)
- [2]Journal of Cosmetic Dermatology — A Survey on the Cosmetic Use of Injectable PN Among Korean Dermatologists (2024)
- [3]Applied Sciences — PDRN as Emerging Therapeutics for Skin Diseases: Clinical Applications and Molecular Mechanisms (2025)
- [4]厚生労働省「未承認医薬品等の広告規制について」

